【Essay】アートと社会課題の新しい関係 クラウドファンディングによる「寄付」のリデザイン

新しい時代の資金調達、クラウドファンディング 

私が最初にクラウドファンディングに関わったのは、2017年、Sax奏者WaKaNaさんのファーストアルバム、Saxcess Storyの制作プロジェクトだった。WaKaNaさんはSmooth Jazzというジャンルのアーティストで、私とは、ル・ファーレ白浜の新棟オープニングレセプションで演奏を依頼した時からのお付き合いだ。当初は近隣から素敵なアーティストが出てきて嬉しい、という思いだった。

しかしWaKaNaさんはなんと、その後間もなくクラウドファンディングで「世界へと羽ばたくためのCD制作プロジェクト」を立ち上げる。ロサンゼルス在住のプロデューサーやミュージシャンとのCD制作と聞いて最初は驚いたが、その思いを聞いていて胸が熱くなった。そして私も、フライヤーやサイトの英訳などで協力することになった。

この挑戦に彼女は、西海岸のGreg Manning氏をプロデューサーに迎えた。そして「Smooth Jazzというジャンルで、世界に通用するアルバムを作りたい」と演奏する先々で率直に語り、最終的にこのプロジェクトは大成功を収めた。WaKaNaさんのアツい思いが文字通り、群衆、クラウドを動かしたのだった。

 

      

社会課題とアートを繋ぐ

ル・ファーレリゾートは、長い間「音楽のあるリゾート作り」にずっと取り組んでいる。そんな中「みんなで作るシリア展 with Yae」と題し、シンガーのYaeさんが歌うコンサートイベントを企画したことがあった。

このイベントは、シリア支援をしている田村佳子さんが、紛争により約22万人が命を奪われた当時のシリアの状況に大変心を痛め、クラウドファンディングでCDを制作したことから始まった。Yaeさんがアラビア語で歌う「椰子の実」は、行き場のないシリア難民の切実な思いと重なった。

このプロジェクトの大きな成果を持って、佳子さんは夫である山口泰さんと海を渡り、周辺国に避難しているシリア難民の方々に支援を届けた。これは「日本からもシリア難民の方々のことを想っている」という大きなメッセージとなった。社会課題とアートをこうして繋いでいくクラウドファンディングの試みは、この頃からだんだん見かけるようになってきたと思う。

 

      

クラファンで温かい心を分かち合う

昨年は私も、令和房総半島台風の復興ソング「虹を見たかい」と、FMシアター「風のあと咲き」、2回のCD制作プロジェクトでクラウドファンディングをした。普段オンラインにいないであろう地域の年配の方からも多くの反応があり、寄付のお知らせが一つ来るたびに地元への思いも一緒に寄せられているようで、胸がじーんとなった。また「風のあと咲き」の収益金は「安房生物愛好会」という地元の自然保護団体に寄付されたが、会長さんから丁寧な喜びのお手紙をいただき、ここでも心がポッと温かくなった。

今、世の中では、様々な社会課題に対してたくさんのクラウドファンディングが行われている。「寄付」という行為も、従来のような「お金持ちが、困っている人を助けてあげる」というような一方通行的なものではなく、もっとお互いの心を分かち合うような、温かい気持ちのシェアに変わってきていると思う。

人の心を癒すアートは十分に課題解決の一助となりうる。アートの力で社会課題を解決するムーブメントは、ファンドレイジングの進化を経て、これから益々大きくなっていくだろう。

(ARTISTIC BAY BREEZE vol.3 2021.06.10 に掲載)